テクニカルアドバイス
For Roadster

テクアド  バランス

今年一年、振り返れば誠に多忙な年でした。
エンジン、ミッション、デフ、サスペンション、なんでもござれ。
バリバリやらせて頂きました。
レースエンジンのO/H,一般エンジンの基本O/H,別に差は無く何度やっても緊張します。
自分の手で丁寧にバリを取り、正確にバランスを合わせ、徹底的に洗浄し、一つ一つを確認しながら組み上げたエンジンだからこそ、大切に乗って頂きたいと考えます。
大切に乗るとは、温存するの意味ではありません。
パワーばかりに拘ってエンジンを作る気もありませんが、性能パワーを惜しまず遊んでいただきたいと考えます。

組み上げたエンジンを車体に搭載する前に、エンジンオイルを先に入れ、オイルポンプにも呼び水がてらオイルを注入。
そしてゆっくり手工具でクランクを回します。
シュッ、シュッ、とプラグホールから圧縮エアが抜け出す音が聞こえます。
オイルギャラリーからオイルが流れていることを確認出来たら、初めて車体に搭載。
組みあがったところで、今度はプラグレスのまま、クランキング。
最小限に油圧が掛かる事を確認したなら、最後に点火系を整備してスターターを回します。
バゥンっと一発火が入る瞬間が最高の緊張と楽しみ。 快感なのです。
組み上げたエンジンに火を入れるだけでもこれだけの儀式があるのです。
ここまで来るのに時間がどれほど掛かった事か、毎回,そう感じます。

完全ノーマルエンジンにせよ、チューニングパーツが使われているにせよ、基本は基本。
そして、バランス。

今年最後のテーマはバランス。

“ロードスターはバランス命。”

と良く言われます。
エンジンパワーの足りなさを、軽量とフットワークでカバー。
“バランス的チューニングの醍醐味”が味わえる車と言えましょう。

ところで、非力なエンジンをサス系でカバーすることをバランスの良さとして片付ける気はありません。
強力なパワーがあれば、タイムは確実に上がります。足回りのチューニングもパワーの前に圧倒される事もシバシバ。
自然吸気のエンジンではターボ車のように“単純に加給を上げて” 何て真似は出来ませんので、この辺が難しい所。

一方でエンジンパワーを上げれば、バランスは崩れるのでしょうか?
やたらなハイカム入れて、常用9,000RPMなんて車はそうは出来ません。
一時的な高回転型エンジンでは仕方ありません。
ロングライフを期待するのなら、出来れば、7,000RPMチョッとでシフトをお勧めしたいのです。
これは、マルハでお勧めしている一般的メニューの基本ですが、これもバランスの成り立ちからでしょうか?

“バランス”を基本にタイヤのサイズ、サスのバネレート、エンジンのスペック、色々な箇所の設定が皆さんの頭の中にある筈です。 
一言で言い換えると、“一般的常識”として感じられているものです。

私が“小僧”扱いで車を触り始めたころは12、13インチが主流。
お兄さんたちがセリカのリフトバックやギャランGTO,いすゞの117クーぺ、
ハコスカ、ケンメリ、TE27レビン、何て名車を転がしていました。

プロ野球で言うところの、阪神のラインバック(バースなんていうのはまだ甘い)、大洋のシピン なんて人達が活躍しているころ。

お金が出来ると14インチ、チョッとだけ車高ダウン、何て事がさも大事なチューニングとして扱われておりました。
ロードスターが発売された時は14インチの扁平60。時代を感じましたが、いつの間にか15インチ(扁平50)。
そして新型は16インチ。

タイヤだけを取り上げても、インチアップ(扁平率の変更)と変化してきています。
これはバランス的要素から考えれば、個人的には崩しているイメージが湧く一方で、
“メーカーが行う変更は時代の流れ、個人的な変更はバランスの崩壊”と、同じ事をやっても、どうも勝手が異なります。
10年前にNA6CEに205・45−16のタイヤを装着する人は滅多にいませんでした。
重すぎる、大きすぎる、グリップしすぎる、太すぎる、こんな感じで“過ぎた”タイヤになっていた筈です。

私も含めて、一般常識に洗脳されている様です。
メーカーは確かに“時代を造る”存在であり、 その時の時代の流れが“傾向”であり、
“基準”になります。
そして、その基準を踏まえて皆さんなりに“バランス”を考えます。

ホンダのエンジンは非常に良く回る。
レブの設定も大きく、昔なら考えられない高回転が許容になっています。
ホンダの作り上げたNAエンジンの常識を各メーカーが必死で追従。
S2000は誰が乗っても9,000回転OK。(本当に大丈夫か?と未だに疑問はあるが)
アルテッツアがNAエンジンの出力アップに躍起になって開発して来たことは皆さん良くご存知。
新車の時から、アイドルが多少ブレています。
微妙なアイドルはいかにも上でのパワーを狙った証。メーカーが作ってもやはりこうなってしまうのか?っと考えさせられたアイドル状態。
これはバランス的に崩れているのでしょうか?
アルテッツアのトルクの谷はアンバランスにあたるのでしょうか?

つまり、個々に感じているバランスは如何に曖昧で、如何に微妙な物なのか分かります。
曖昧な“バランス”を基準に車を作っても閉じこもった物になりがちに思えます。

確かに、エンジン組み上げ一つを取っても、基本はあります。
バランスを考えてメニューも組みます。
気が付くと“ロングライフ”を前提にした“日常的”なメニューをお勧めしています。

そう考えると、“バランス”は壊れない、耐久性のある設定のことを指しているのでしょうか?
ターボ化も面白いし、レーススペックのNAチューニングも最高に楽しい。

NB8Cターボ NA6CEターボ AE86ターボ

左:NB8Cターボ 中央:NA6CEターボ 右AE86ターボ

マルハではNAチューニングだけでなく、ターボ化も取り扱っています。

組んだエンジンで何万キロも走行していただくと本当に嬉しい。

皆さんに合った、“バランス”作りが私たちの仕事なのでしょう。

今年は大変多くの方に支えられながら、仕事が出来ました。
来年もスタッフ一同、気を引き締めて頑張ります。
変わらぬ御愛好、お引き立ての程、宜しくお願い致します。
誠に有難うございました。

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