マルハ LSD講座 その2


一般的にビギナー向けは1WAY、あるいは1.5WAYであり、上級者向けやドリフト向けは2WAYなどと表現されています。
これらの表現ははたして正しのでしょうか?
機械式LSD装着を考えている皆さんは、雑誌、広告などの情報を元に値段と照らし合わせながら、どのLSDを選択しようか迷われていることと思います。

さて、ここではマルハ流LSD選択術を交えながらマルハLSDを紹介して行きましょう。

  1. WAYの方がビギナー向けである?
  2. コーナーアプローチはどのLSDが取りやすい?
  3. FF車とFR車を先ず区別して考える。
  4. 1.5WAYは重宝でマルチ型?
  5. 大きなディスク径に、多い枚数
  6. トラブルの原因はケース素材にもあり。
  7. イニシャルトルクって何だ?
  8. サラバネとスプリングでのディスクの圧着。
  9. 何故オイルで特性が変わる。
  10. 添加剤(LM-1201)の効果。
  11. ディスクの摩耗ってどれ程?
  12. 2WAYで頑張れ!

  1. 1WAYの方がビギナー向けである?
    LSD講座その1で説明の様に、機械式LSDには3種類に大別されます。
    1WAY,1.5WAY,2WAYです。
    その中で特に1WAYが"コーナーアプローチが取りやすくビギナー向け"と紹介されるケースが多いのですが、少し誤解を招き易い表現であると考えます。
    1WAYはアクセルON時のみにLSDが効く。つまりコーナー手前のブレーキング時(アクセルOFF時)にはLSDの効きは不要と説明をしているのです。
    この表現はFF車に対してのもので、ロードスターの様なFR車には当てはまらないものであると理解して欲しいのです。
  2. コーナーアプローチはどのLSDが取りやすい?
    下の図は良く見かけるコーナーアプローチ例です。

    青ライン: 1WAY・LSD装着FF車のアプロ-チ例
    緑ライン: 2WAY・LSD装着FR車のアプローチ例
    この様な粗い表現をされるケースがあるが、理由が具体的でなく、説明が不十分である。

    内側を通り最短で無理なくクリップポイントを通過するのが1WAY,外を膨らむラインが1.5WAYや2WAYと表現されています。場合によっては2WAYは1.5WAYよりさらに外側に膨らむと説明されるケースすらあります。
    ここで、しっかり認識して欲しいのが、先ずFF車とFR車の違い。

    コーナー進入の基本操作は:
    1. 直進状態で安定させながらブレーキング→
    2. ステアリングを切りながらコーナーへ→
    3. アクセルコントロールでクリップポイントへ→
    4. クリップが取れたらアクセル全開→
    5. 脱出

    これら操作の内、b・c 間はアクセルoffあるいはハーフアクセルとなりながらのステアリング操作となります。
    特にb においてアクセルを抜いていてもLSDが効いていてはアンダーステアでラインが膨らむと表現されるのです。
    ただし、この様なアンダーステア状態になり易いのは、あくまでもFF車に於いての傾向と考えるべきなのです。
    FF車は前輪が駆動し、そして前輪でハンドル操作を行う為、LSDが効いていると内外輪の差をデフが吸収し難く、通常より余分にステアリングを切らなくてはならないのです。

  3. FF車とFR車を区別して考える!
    ロードスターはFR車。
    FF車の様な独特のステアリングの癖は無く、ステアリング操作で素直にノーズが内側に向いてくれます。
    実際のコーナーアプローチにおいては、駆動するリヤのLSD効果が曲がり難くする原因には殆どならないのです。
    むしろ2WAYによる恩恵を優先して考えるべきです。
    アクセルに俊敏に反応し、アクセルワークによる姿勢コントロールの良さは2WAYであるからこその醍醐味。
    この醍醐味を"派手なドリフト派"と論ずることは大きな間違いです。
    確実なグリップを卓越してのドリフトと考えれば、2WAYはグリップ走行にも、そしてドリフト走行にも順応する"走り"を意識するFR車ドライバー向けなのです。
    操るLSDと考えてください。
  4. 1.5WAYは重宝でマルチ型?
    1WAYと2WAYの中間LSDが1.5WAYと呼ばれています。
    1.5WAYの響きから"マルチ型が無難で間違わないコツ"と考えてはいないだろうか?
    アクセルON時の確かな効きとOFF時のマイルドな扱いやすさ?・・・であると。


    先ず、しっかりとポイントのおさらいです。
    1.5WAYも厳密には2WAYの類なのです。
    アクセルONのみで効けば1WAY。 ON/OFF時で効けば2WAYです。
    LSDの効き具合はイニシャルトルク、ディスク系、ディスク枚数、そしてプレッシャーリングのカム角。
    これらの要素でLSDの性格が決まります。
    カム角の切り方をアクセルONに比べ、OFF時を少しマイルドにしてあるLSDを全て1.5WAYと総称してしまいます。
    場合によっては1.6WAY位の比率であったり、1.4WAY位の比率だったりします。
    また、ある車のアクセルOFF時のカム角(例 ON60度/OFF45度)がある車のON時のカム角(ON45度/OFF20度)だったりするケースもあります。
    表現の方法を変えれば、OFF時のカム角を基準とすれば、2.2WAYなどと言えなくもありません。
    如何に曖昧に1.5WAYが表現されて販売されているかがお分かり頂けると思います。

    イラストは2WAY。
    横中心線を規準に、上下の角度は等しい。

    さて、1.5WAYがマルチでFF車・FR車のどちらにも適しているのでしょうか?
    前述の様にアクセルON・OFFによるカム角強弱を各メーカーがどの様に付けているのかでも話は異なりますが、やはり基本的にはFF車に比較的適していると思います。
    FF車コーナーアプローチでのステアリングの癖(余分なステアや重い感触など)を緩和させる為です。
    TRDやNISMO系LSDにおいてもFR車には2WAYを主に設定をし、FF車に1.5WAYをラインアップしていることからもメーカーの姿勢を見る事ができます。
    そして、マルハではロードスターだけにしかLSDを設定しておらず、"FR車を操る"
    為のLSDであることから2WAYに拘るのです。

  5. 大きなディスク径に、多い枚数
    1〜4までをLSDの区別(WAY)を中心にしてきましたが、性能面からはディスクの枚数や直径について欠かす事が出来ません

    「LSDのロックは100%ではありません。」

    アクセルのON・OFFによりピニオンギヤシャフト(十字軸)がプレッシャーリングを内側より外方向に押し広げます。
    押し広げ加減をプレッシャーリングの角度(クサビ効果)で調整します。
    いずれにせよ、外方向に押し広げる力は複数枚のディスクを圧着させてLSDをロックさせます。
    圧着によってロックさせるのですから、当然ロスが出ます。
    このロスは例えば、タイヤのグリップが高い、内外輪の差が大きい、カム角が小さい、
    オイルが軟らかい、ディスク径が小さい、枚数が少ない イニシャルが低い 等の理由で
    発生します。


    ピニオン軸の軌跡を色分けした図。
    アクセルON:緑 アクセルOFF:赤
    図は2WAYなので、どちらもプレッシャーリングを外に開く働きをする。


    ロスの発生は100%ロックにならない事を意味しますが、全てが"悪いこと"と言う分けではありません。
    イニシャルを下げて乗りやすさとロックの両方を狙うトルク感応型、粘度の低いオイルで乗りやすさ(チャタリングの抑制)など、意図的にある程度のディスクの滑りを狙うのです。
    また、ある程度のディスクの滑りは抑えられないものである事を前提にLSDを判断することも大事です。
    ただ、安定したロックを狙ってこそのLSDでもあり、やはりディスクの性能はとても大切な要素です。
    小さな径や、少ない枚数ではディスクへの負担も大きく、早期摩耗やハード走行での耐久性が期待できません。
    マルハのLSDは従来の機械式LSDに比べ大きなディスク径と多い枚数を確保しています。ディスクの容量アップは低イニシャル設定でもシッカリしたロックを可能とし、長いライフで楽しむ事が出来ます。

  6. トラブルの原因はケース素材にもあり



    メーカー系LSDのトラブル原因にケースの破損があります。
    特にハードに使ったり、設定されていないシムを他社からの流用で無理に入れるとケース内の圧力が増大しケースが割れるのです。
    この様なトラブルを防ぐには、まずケーシングの素材を安定させなくてはなりません。
    メーカー系LSDが鋳物(量産向け)製に対し、マルハのLSDは炭素鋼の削り出しです。
    また、ケース内に設けられる溝(プレッシャーリングや外ツメディスクのスラスト・ガイド)も鋳物製は傷が入り易く、これらパーツの摺動の妨げとなりますが、マルハLSDのケースではこの様な現象は起こり難い様に設計されています。
    ケースの直径も最適に設計されており、リングギヤとの兼ね合いを大事にしています。
    "リングギヤに熱を与え、クリアランスを確保しなくては装着できない"と言う様な事は
    ありません。
  7.  イニシャルトルクって何?
    イニシャルトルクは何キロですか?と問い合わせて来られる方がいます。
    イニシャルトルクとはケース内のディスクを圧着させる与圧の事です。
    複数枚のディスク間に設けられるクリアランスに対し、サラバネを使って与圧させるのです。
    この与圧だけではディスクは互いに滑ってしまいます。(エンジントルクによるプレシャーリングの推力と比較をすれば、与圧は遥かに低い力)
    イニシャルトルクは加減速に対し車輌をギクシャクさせず、安定してLSDの効きを維持する為に必要とします(ハンチングの防止)。
    マルハのイニシャルは7kg(±1kg)で設定をしています。比較的穏やかなイニシャルに設定をしていますが、イニシャルの上下でLSDの容量が変わるものではありません。

    イニシャル変更で、LSDロックまでの時間(瞬間ですが)も変えることが出来ます。
    カム作用により外に押し広げられるプレッシャーリングがディスクを圧着させてLSDがロックしますから、与圧が低い程圧着までの時間が掛かる事になります。
    つまり、イニシャルを上げればより瞬時にLSDがロックし、(アクセルへの反応が速い)
    イニシャルを下げれば比較的ダルにロックするので日常的には乗り易い特性になります。
    ただし、イニシャルを上げるほど、ディスクが互いに圧着され、最初からLSDが多少なりとも効いている状態となり、トルク感応型とは呼べなくなります。
    日常的な要素を残しつつ、LSDを楽しむ方向に向けることは、相反する要素を取り入れる事でもあり、この辺りの兼ね合いが難しいところです。

  8. サラバネとコイルスプリングでのディスクの圧着
    イニシャルトルクを発生させる為にはバネを使います。
    一般的なのがサラバネですが、コイルバネを使っている製品もあります。

    縦軸:バネ力
    横軸:たわみ

    緑:コイルスプリング
    赤:一般的なサラバネ
    赤:マルハLSD

    マルハLSDで採用しているサラバネは一般的なサラバネと比べ、ある点から一定の領域では殆どバネ力が変化しない特性があります。
    この特性により、多少のプレートの厚みが変化してもイニシャルトルクの変化が生じないと言う性能を実現しています。
    また、サラバネはコイルスプリングの特性とは異なり、ある一定の領域からは一定のバネ力を維持する事から、長期に渡り安定して性能を維持する事が可能です。
    また、サラバネは一枚の一体化したバネであるため、トルクをディスク全体に均等に与える事ができるのです。


  9. 何故オイルで特性が変わる。
    デフオイルの本来の目的はギヤの潤滑です。 ミッションオイルに比べ、デフのオイルが硬いモノを使う理由は極圧の違いによるものです。つまりギヤの歯当たりの度合いがデフの方がより厳しいわけです。
    ミッション用オイルにはGL-4、デフ用オイルにはGL-5などの極圧に対する目安があります。
    機械式LSDを装着した場合は、本来のギヤ潤滑の他にLSDディスクの摩耗防止と効きの両面も意識しながらオイルを選択しなくてはなりません。

    ディスク間に入り込むオイルの粘度が硬ければ、ディスクの滑りをより抑える事ができます。
    これはオイルの"せん断力"を利用するものです。
    例えば、机の上に水を垂らしプラスティックの下敷きを当てがいます。この下敷きを手で動かす時、水がある程度抵抗となりますが、一方で下敷きを摩擦から保護する役目も担います。この水が軟らかめなオイル、そして硬いオイルと変わって行けば、手に掛かる負担は増大していきます。つまり滑り難くなるのです。
    LSDに当てはめれば、粘度の硬いオイルを使うほどディクク間の抵抗が大きくなり、ロック率を高める事ができるのです。

    一方で、滑りにくいオイルは低速域でのチャタリング(バキバキ音)の発生に繋がり易く、
    日常的には少々使い難い面が出てしまいます。
    機械式LSDをシッカリと理解していないユーザーは"チャタリングの出るLSDは性能が悪く、出ないLSDは使い易く性能が良い"と考え気味ですが、オイルによっても随分と特性を変えられる事を覚えておくと良いでしょう。

    また、チャタリングのみでLSD全体の性能を決め付けてしまう事は大変粗い選択であり、どの機械式LSDもある程度のチャタリングは避ける事はできません。


  10. 添加剤(LM-1201)の効果。

    オイルによってLSDの特性が変わるのですが、要はチャタリングが発生し難く(滑り易く)、またシッカリとLSDが効けば(滑り難い)良いわけです。
    しかしこの条件は相反するもので、プレッシャーリングのカム角や、イニシャルトルクで上手く兼ね合いを取らなくてはなりません。
    それにしても、オイルは大変重要な要素である事に変わりはないのですが、オイルだけでは賄い切れない部分に添加剤を使う方法があります。
    現在のマルハLSDには"LM-1201"と言う添加剤を付属させています。
    個別に販売もしております。 35cc容器/500円です。
    レーシングスレッドコントロールキットで開発,製造を依頼している大東潤滑(株)社による添加剤です。
    沈殿し易いモリブデンを主剤としながらも浮遊剤を使いオイルと素早く馴染む工夫が施されています。
    ディスクに入りこみ、チャタリングを抑え、トルク(アクセルの踏み込み)に対しジワッとした感じを生み出します。 添加剤はオイルに対して3〜5%程度の極少量を目安とし、あくまでも初期馴染みを目的として推奨するものです。
    過剰な使用量や、頻繁な使用頻度はディスクを滑り易くさせる可能性もあり、目的や使い勝手に合わせてコントロールさせる必要もあります。
    また、トランスミッションに対しも有効で、シンクロナイザーの保護やシフトフィールの改善などにも有効な添加剤です。
  11. ディスクの摩耗ってどれ程?
    ディスクの摩耗がLSD・O/Hの必要性として反映しますが、実際にマイクロメーターで測定をすると一般的にO/Hで分解する殆ど全てのディスクが新品とそれ程変わらない厚みである事が分かります。
    皆さんのイメージの中で使い古したディスクは摩耗が促進し、かなり痩せているものと想像されていると考えますが、実際には殆ど摩耗していないケースが大半です。
    つまり、皆さんが考えている以上に機械式LSDのライフは長く、LSDの効きが悪いものは最初から容量が乏しく、O/Hをしてもあまり変わらない事が多いのです。
    機械式LSDのライフの短さを理由にLSD装着を躊躇されている方は思い切って使って頂きたいと思います。決して心配される程短いライフではありません。
    定期的なLSDのO/H時期は特にアドバイスがありません。使い方によりLSDの消耗が大きく異なり、推奨時期の明確化が出来ないのです。
    マルハLSDは大型ディスクを12枚使う容量の大きさを誇ります。
    この容量がライフを伸ばし、安定して長期に渡り性能を維持させる事ができます。
    しかし、ジムカーナ等一般に比べLSDに対する負担が大きい使い方を繰り返せば、どうしてもLSDの効き目は落ちてきます。
    ハードな使い方を前提としているならば、少々のチャタリングは無視をして粘度の硬いオイルを最初から使うなどの工夫が上手く楽しむコツです。
  12. 2WAYで頑張れ!
    今までの説明でマルハ何ゆえロードスターに対して機械式LSD、そして2WAYに拘るのかが少しでもご理解頂けたのであれば幸いに思います。
    各々の考えがあり、付き合うがガレージやショップの意見もある事でしょうから、総合的に都合の良いモノをご購入頂ければ、それで良いと思います。
    ただ、マルハは単純にLSDを販売しているのではなく、ロードスターを熟知した私たちが求めるLSDを提供しているのです。
    "FR車は2つのステアリングがあります。" 1つはハンドルによるステアリング、2つ目はテールスライドによるステアリング。
    アクセル加減により思い通りにテールをスライドさせたり、グリップさせたりする醍醐味がFRロードスターに乗るユーザー意識の根底にあります。
    だからこそ、ピックアップの良い2WAYでLSDを楽しんで頂きたいのです。

    また、高性能&リーズナブル価格を設定し多くのロードスターユーザーに機械式LSDの楽しさを提供したいとマルハは頑張っています。

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